日本サッカーは本当に強くなったのだろうか?
この大きなテーマを考えるための直撃取材。今回は最適任者の1人ともいえる、レジェンドに直接話を聞くことができた。
Jリーグの名門・ジュビロ磐田に加入し、正ゴールキーパーとして、41歳のシーズンも目を見張るパフォーマンスを発揮し続けている川島永嗣。日本代表として、4度のワールドカップを経験し、うち3度は正GKとしてゴール前に立ちはだかった日本の守護神だ。
2010年に海外に渡り、競争が激しくコミュニケーションが大切で、日本人にとってレギュラー確保が難しいとされる11人のうち1つしかないポジションで、ガッチリ定位置をつかみ、新たな歴史を刻んできた。
ベルギー、スコットランド、フランスの計5クラブで実に13シーズンを過ごし、その国に溶け込み、堪能な語学も生かし、どのチーム、クラブでも確固たる地位を築き、尊敬されてきた。
日本を知り、日本人を知り、欧州を知り、本場で活躍する多国籍の選手のプレーと性格も知っている。圧倒的な情報量とその人柄、クレバーな頭脳、思考を的確に言語化できる表現力も含め、将来に渡る日本サッカーの中心的人物。レジェンドは、はっきりとした言葉で自らの思いを語った。
Q:久しぶりの日本はどうですか
A:「夏がマジで熱かったです(苦笑い)。日本、なんなんですか…。もう14年ぶりなんですけど」
Q:今回、一番のテーマとして、日本サッカーは本当に強くなってるのか? を我々は追い求めています。その中でも、川島選手には、体作りだったり、フィジカル面について、海外との違いを、ぜひお伺いしたい。よろしくお願いします
A:「やっぱり骨格は違うし、足の出てくる距離、間合いだったりとか、フィジカル的なところで言うと、重さだったり、フィジカルコンタクトする場面で、違いは確実にあるといえば、あります。ただ、以前にくらべれば、日本人が対応できる時代にはなってきているのかなと」
Q:日本人も世代が変わり、体形も変化している部分があるのでしょうか
A:「いや、体格自体、そのものは変わっていないと思います。ただ、方法というか、今までは体格的に負けていた部分をどう補うか? に関して、科学的な進化というかトレーニング理論も含めて、以前にくらべれば、よりそういうところを縮められる方法が知られるようになってきた。そして、そういう経験をしてきた選手が増えてきた。その分、ただフィジカルの差で終わらせないってところも含めて、経験値でも、やっぱり上がってきている部分もあるのかなと思います」
Q:特にゴールキーパーというポジションで、海外の選手との違いを感じる部分はあるんでしょうか
A:「ありました。それこそベルギーの時もそうでしたし、特にスコットランドに行った時は、フィジカルバトルもかなりあったので。自分が強くないと、空中戦でも相手に吹き飛ばされてしまう。そういうところは、トレーニング法を変えたりもしました。
あと、グラウンド状況もある。例えば、整ってるグラウンドでやるのと、ある程度柔らかいグラウンドでは、下半身をどう使えるか、どう強くしなければいけないっていうのも、全く違う。日本でやっていた時とは必要なパワーだったりが違う部分もある。海外に行く時は、より一層、必要になってくるかなと」
Q:ずっと力強い、たくましいイメージが変わらない川島選手ですが、筋力トレーニングの大切さには、いつ気付きがあったのですか
A:「僕は18歳の時にイタリアに留学して、実際にヨーロッパの選手がどういう基準でやってるのかを、結構感じることができたのが大きかった。日本に戻ってきて、今のままじゃいけないな、とか、アンダーカテゴリーの代表活動もそうですし、そういうところで、感じることができたのは、自分のひとつのきっかけになったと思います。
それでも、当時も、スクワットとかをやると、(負荷で背負っている)重りが、もう全然、16、17歳くらいから、(ヨーロッパの選手とは)違う。自分の倍くらいの重さの選手もいましたから。だからといって、別にそこに近づこうというふうには、考えなかったです。それでもやっぱり、あれだけのパワーがある選手たちと争っていかなきゃいけないという考え方にはなった。そこはいいきっかけだったかな」
Q:その後、長く海外でプレーされ、多くの外国籍の選手たちと、長い時間を過ごされた中で、彼らの筋トレに対する考え方は、どのような感じですか
A:「やる選手もいるし、やらない選手もいます。『筋トレ』っていっても、やっぱりいろんなやり方があるんで。ひとつに絞ることはできないんです。ただ、費やす時間とかを1週間の中で考えても、やっぱり向こうの選手は、(長い時間)やっているっていう印象がありますね。
ストラスブールのチームの中でも、週の中で、例えば午前中練習があると、午後に筋トレやりたい人は、しっかりやる。上半身を鍛えたい選手、爆発的な(力をかけ、効果を求める)トレーニングをしたい選手や、アジリティー(俊敏性)を求めたいという選手が、結構いました。午前中にチーム練習をして、はい終わりっていう感じではなく、午後は個別に筋トレなど。結局やっぱり1日、みんながトレーニングに費やすという日は多かった。
フランスは、アカデミーで筋トレを結構やらされます。トップは自分で選べるけど、アカデミーは多分、週3くらいで、やらされていた。そういう文化、思想だから。あれだけフィジカル的に強い国の選手たちが、やっているわけだから、やらなかったら差は縮められないわけで」
Q:サプリメントや栄養の部分を意識されたのは
A:「高校の時ぐらいから、食べるものも含めていろいろ勉強したりしましたね。自分で調べて、わからないと、聞いたりして。サプリメントは、高校の時はとってなかったんです。プロに入ってからも、あんまり僕はとる方じゃないじゃないです。でも、必要な時はやっぱり、とったりしています」
Q;海外はその点、どうですか
A:「選手によってですが、すごくこだわりのある選手はいますね。自分に合った、自分のプロテインを持っていたりとか。クラブによっては、定期的に血液検査をして、足りなければサプリメントで補う。毎日、必要なサプリメントが置いてあるという日常があったりしましたね」
Q:日本では、改善されたと思いますが、まだ抵抗感がある人も
A:「結局、本当にトップのパフォーマンスを出そうと思ったら、それだけ体を追い込まなければトップのコンディションは出来上がらない。体を追い込むことで、それだけ体に負担がかかる。もちろん食事からとる栄養だけで補えたらベストですけど、例えば試合が連戦で、週の中でもハードなトレーニングがある日あります。その中で全てを、食事だけで補うのは難しい面はあるだろうな、という考えでいます」
Q:少し話は変わりますが、ワールドカップのロシア大会でベルギーのカウンターで日本は敗れました。最後、ここぞ、というところで、すごいスピードで襲いかかってきた。ヨーロッパの選手のあの極限でのパワーは、どういったところから来ると思いますか
A:「力を出すところ、緩めるところの緩急だったりとかは、ある意味、向こうの選手はうまかったりする。常に100%でやるのが、日本人のメンタリティー。どれだけキャパシティーを上げられるかっていうところにフォーカスしているからで、その一方、どこで出す、どこで緩めるかっていう考え方は、あまりしていないかなと思うんで。そういう意味では、海外の選手は、ある意味賢い部分もあるかなと思います。
やらないところは、やらないですから。あとは、自分のコンディションに対しての意識がすごく強い。これはフランスが特に強いと思うんですけど、やっぱり自分の100%でやれないと、やらないです。100%の状態が整わず、トレーニングでも、ちょっとケガのリスクがあると、もう(無理して)やらない。それも含め、自分のコンディションの持っていき方をちゃんとわかっている。やっぱり自分の100%を出すために、そこは(少し力を)抜かなきゃいけないとか、その『やらない勇気』がすごい。
これについては、よくない面もあります。でも、自分のコンディションとして、逆にやりすぎだとか、ここで追い込んだらケガするかもしれないとかっていう時の『やらない勇気』がすごい。それでもちゃんと、ただサボっているわけじゃなく、試合の時にいい状態に持っていくのがまず第一にくるわけです、彼らは」
Q:今回、追い求めているテーマの答えへとつながる、素晴らしい思考、ヒントをいただいた気がします。ありがとうございます。そういった日常から、日本に戻られ久しぶりのJリーグ。いい方向に変化しているという手ごたえはどうですか
A:「僕はありますね。もちろん、もっとよくできるところとか、よくしていかなきゃいけない面はあると思います。でも、自分がいた時のJリーグにくらべたら、それこそフィジカル的なものも含めて、確実に変わっていていると思う。これだけやっぱり今、ヨーロッパに選手を輩出できるリーグになっている。それは、確実にレベルが上がってるから。逆に、日本人がヨーロッパに行かなくてもいいぐらいのリーグになれる可能性っていうのも、今後、あるんじゃないかと、僕は思います」
Q:ヨーロッパが日常だった川島選手にそう言われると、すごく重いです
A:「行ってわかる部分はもちろんあるし、一番最高峰っていうのは、ヨーロッパにしかない。そういう意味では絶対的に、経験すること、最高峰の戦いに身を置くってこと、それは大事だと思います。
ただ、その環境っていうのは常に自分が選べるわけじゃない。でも、どういう志というか、ものを目指してやるかに関しては、確実に日本人の方が向上心があるし、やっぱりまた違った可能性っていうのも、あるんじゃないかと思います」
Q:最後に1つ。今の川島選手が、自分が高校3年生の自分に話ができるとしたら、どのようなアドバイスをしますか
A:「とにかく『練習しろ』って。やっぱり、うまくなれる時間っていうのは、限られている。高校だったら、選手権を目指したり、クラブだったらクラブの大会を目指して、そういう中で自分がうまくなれる時間を、有効に使ってほしいと思う。
それこそ、さっき言ったように、これだけ日本人がヨーロッパに出ていくような時代になった。もっと、多分良くなると思いますよ、それは。でも、日本人は(ヨーロッパでプレーする)ブラジル人じゃないですけど、どの国にもいるよね、ってくらいに、僕はなってほしいと思う。若い時はその可能性を広げられる大事な時。時間だったり、考え方の幅も含めて、若いときは、全てが無限大にあるわけですからね」