日本サッカーは本当に強くなったのだろうか?

日本サッカーは本当に強くなったのだろうか?

この大きなテーマを考えるための直撃取材。今回は、Jリーグの名門を確かな手腕と眼力で建て直しつつある、ジュビロ磐田の藤田俊哉スポーツダイレクター(以下SD)を直撃した。

 元日本代表の名選手で、磐田黄金期の背番号「10」。2001年にはJリーグのMVPに輝き、まだ海外組が少なかった2003年にはオランダのユトレヒトでプレーした。

 引退後は、オランダのVVVフェンローでコーチを務めた。日本人が欧州の主要リーグでコーチを務めた例はほとんどなく、さらにその後は日本サッカー協会の「欧州駐在強化部員」としてたびたび日本代表チームの活動に同行した。

 選手としての輝かしいキャリア、指導者、フロントとしての多彩なキャリア、そして確かな見識。今回のテーマについて聞くにあたり、これ以上の人物はいない。

 静岡・磐田市のクラブハウスに藤田SDを訪ね、インタビューの機会を設けてもらった。

 

 練習を見守る藤田SDは、いますぐにでもピッチに戻ってプレーできそうなくらい、スマート。顔つきも現役時代とまったく変わらない。精悍(せいかん)だった。

 現役引退から12年がたつが、ここだけは時の流れが止まっているかのようだった。

だが、藤田SDの確かな視点とはっきりとした主張は、一貫して日々進歩する日本サッカーとともにあり、時は止まらず、しっかりとそれをけん引する貴重なリーダーであり続けていることが、分かりやすい話の中で、浮き彫りとなっていくのだった。

 

 Q:今回はありがとうございます。よろしくお願いします。ずっと〝シュっと〟されてますよね? スタイルを保つために、何か気をつけていることはあるんですか

 A:「よく、そう言われるんですが、特別に気をつけていることはないです(笑い)」

 

 Q:今回、大きなテーマとして、日本のサッカーは本当に強くなってるのか? というところについて、お話を伺わせていただきたいのですが

 A:「強くなっています着実に。確実に強くなっている。なぜなら、僕の時代はヨーロッパに行く(移籍)のが目的でトライする感覚だった。だけど今は、移籍先で確実にレギュラーになって更に契約延長する、あるいは移籍してステップアップして当然という時代になった。

 移籍して行くクラブも、ビッグクラブになっている。そういったところの絶対数も増えました。向こう、ヨーロッパでの選手生活のキャリアそのものが違う、変わってきている。以前は海外に行っても(短期間で)帰ってくる人が多かった」

 

 Q:当時は個人の実力というよりは、帰って来るしかない、チームの契約とかもあったんではないですか

 A:「そういう例もありました。でも、やっぱり実力だと思います」

 

 Q:日本代表も含め、世界トップの実力もどんどん伸びている中、日本はその差を詰めてかなきゃいけない立場だと思うのですが

 A:「そうですね。世界との差に目を向けると、『日本が成長している』っていうところはそうだとしても、あまり安易にそう考えちゃいけない、悠長なことは言ってられない、という部分もあります」

 

 Q:今回、大きなテーマの中でひとつ、体作り、栄養、最終的にサプリメントだったりっていうところにフォーカスしたいなと思っています。藤田SDの長い経験の中で、日本と海外の選手の体格差はどうだったのか、教えてください

 A:「骨格が違うという部分だけでみても違いは大きい、筋肉のつき方などからの体格差は大きな課題となります。とくに私の時代は同じ土俵で勝負することは非常に厳しいものでした。しかし今の日本人選手は間違いなく体格差が縮まってきている。もしかしたら、サッカーのプレー以上にその差は縮まってきたかもしれません。

 冨安(冨安健洋=アーセナルFC)とか麻也(吉田麻也=ロサンゼルス・ギャラクシー)にしてもサイズで引けをとることがなくなっている。板倉(板倉滉=ボルシア・メンヒェングラートバッハ)もそうだし。ただ、体の厚みという部分では、まだ違いがあるけど、以前より体格がいい選手が増えているのも事実。やっぱり世代が違ってきて、食事面、それこそ、サプリとか、そういうものを使って適切な時に適切なトレーニング、栄養、休養をとれるようになっていると思います。

 正直、僕の時代は、そんなことを考える環境ではなかった。とにかくひたむきに頑張る。僕も成長期にあれだけトレーニングを過度にしなければ、身長が180くらいになったんじゃないかな(笑い)。こんな冗談言いながらも、本当にそう思う時もある。僕のこの華奢な体(現役時代の登録は174㎝、64㎏)よりもう少しスケールアップしたかも?って。もちろん、じゃあそれがスケールアップしたから、僕がもっと成功したかは別問題です。ただ、少なくとも僕はトレーニングをやりすぎたと感じています。

 適切な時に適切なボリュームでというのは専門的な知識が必要です。自分の時代には朝練の前に朝練やったりしていたなど今では信じられない状況でした。もちろん今ではそれらも良い思い出ですが。がむしゃらにプレーすることが美徳、美学だったりしたけど、今はスマートに成長する時代だから、それらはちょっと違います。これが時代の流れ。そうやって変化しながら成長をしてきました。すべてにおけるレベルは上がっているということです」

 Q:体格差によって、勝負の部分に微妙な影響が出るということについて、どうお考えですか

 A:「それは、負けた時に大概みんなが言うことかもしれませんね。例えば小柄な選手たちが活躍するスペインはどうか?と聞かれたら。間違いなく強豪国ですと答えます。もちろん、大きくて、強くて早くてうまい選手にはかないません。ただ、そこに勝つという部分を追い求めるのもひとつのロマン。小さくても、すごくスキルが高い選手が、大きい選手を手玉に取るっていう面白さがある。それでも、強くて早くてうまい(賢い)という部分は、目指すべきところです。

 より大きくなった方が、フィジカル面で秀でて、優位性が保てるわけだし、スピードが早い方が、絶対的にいいだろうし。それを求めながらも、そうではない人でも戦えるのがサッカーのいいところ、スポーツの醍醐味かもしれませんね」

 

 Q:サッカー界において、特にいまの日本では、選手個人がどんどん努力し、海外で最先端の知見を得て、という部分が進んでいます。そんな環境にあって、今回、ジュビロさんがチーム内ですべての選手が自由に「サッカーサプリメント」を使用できる環境を整えました。Jリーグのクラブによるサプリメントブランドとの契約は異例ともいえる決断で、本気で選手を徹底してサポートし、後押しする姿勢がよく分かります。

 A:「まずはトレーニング環境を整えるということを考えています。人を育てるという観点でも僕らがやれることとして、まずはそれが基本です。その中でトレーニングすること、生活すること、社会の中での自分の立ち位置は、ということを学んでもらうことが柱。環境作りはやる。やれることは全てやった後、どのような成長があるのだろうってところを大切にしています。ですからとにかく環境作り、それをやるのが、僕らの仕事かなと思っています」

 

 Q:プロは選手個人が第一。個人事業主の集合体がチームだという考えもあります。ただ、ジュビロさんは、環境をきちっと用意している。用意してあげるという部分が、クラブの責務なのでしょうか

 A:「ヨーロッパはフットボールに人が集まる文化が確立されています。ですからそこに〝最高の素材〟が集まります。ただ、日本は野球も素晴らしい。陸上やバレー、バスケットボールなどどのスポーツもレベルが高いところにあるので、いい人材が分散するわけです。

 だからといって、それらを嘆いても仕方ない。じゃあ、自分たちのステージに来てくれる、そういう大切な選手たちをどのようにして、トップまで育てていくのか。その観点で言えば、ヨーロッパよりラルできことがことは多いとなりますよね」


 Q:日本は確実に強くなっているという共通認識の中、それでもワールドカップやオリンピックといった世界大会で、日本代表は延長戦やその先のPK戦で屈してしまうことが多い気がします。やっぱりそこの部分で、ヨーロッパとの差は大きい気がします。いかがですか

 A:「例えば2022年のカタールでいうと、クロアチアの戦いぶりを見て、もの凄くタフだなって思いました。彼らは信じられないぐらいタフな戦いを制し続けて勝ち続けてきました。さすがに優勝までは届かなかったけど、あの戦い方も非常に参考になります。

 我々日本は、自分たちがターゲットにしているベスト8にまだ到達していないというところを考えれば、そこを経験している国から、ひとつでも学ぶ必要があると私は考えます。ベンチマークにするところは、たくさんあってもいい。良いと考えることをトライして、その結果を受けて、その先を選んでいくフェーズにいるのではないかな」

 Q:現役時代の藤田SDのイメージといえば、飄々と、もうとにかく90分スマートにプレイされていました。当時、サプリとか栄養とか、あまり気にしておられなかったのかな? と思うのですが、

 A:「僕はそれらが全く無縁の人でした(笑)。たしかに90分を飄々とやるのが好きなタイプでした。それで、自分のキャリアはどうだったのか? と振り返った時にもっともっとやれることがあったのではとも感じました。

 もちろん時代や、そのスタイルもあるけど、こと何かを目指すと目標を定めて、そこに到達しようとしたら違うアプローチをしていかないと。僕があの時代に、世界の一番の選手だったら僕のやっていたことをその通りやってください、とみんなに言える。

 だけど、僕より遥か先を走っている選手たちをたくさん見てきました。正直かなりの差を感じまた。そこを目指し、それ以上になりたければ、今トップを走っている人たちがどんなことを考えて、どうやっているのかなどから多くを学ぶ必要があるはずです。いろんなことを吸収して、たくさん真似もして、その結果どんな現在地に立てるのかの挑戦の日々になるのではないでしょうか」

 

 Q:そういったご自身の経験があるから、いま、ここジュビロで、より一層、きちんと環境を準備してあげたいっていうことになるんでしょうか

 A:「選択肢はいっぱいあっていい。なるべく沢山を用意して選手がこれだと思うことを選択する。我々が何かを制限する必要はない。なぜなら、世界の第一線で戦っている人たちの現状を見れば、我々もたくさん提案して、そこから自らの意思で選ぶという環境にしたいです」

 

 Q:中学、高校生のジュニアユース、ユース年代の選手たちが、この記事を読んでくれることもあると思います。藤田SDが、いま高校生で、部活でサッカーをやっていたとして、今の藤田SDは、藤田少年に、どんなアドバイスをされますか?

 A:「そのまま情熱を持って、フットボールを思いきり楽しんでもらいたいです。あとは、どんなときも社会の一員なんだよということを、常に意識して部活動や中学校、高校生活を過ごしてもらいたいです。

 社会の中、組織体の中のひとりだよ、そこからいろんなことを学べることも早く理解してもらいたい。もうちょっと大きい世界があることも知ってほしいし、可能なら、いろんなところに出ていってほしいです。

 学校単位だけじゃなく、県や地域その他のエリアや海外など世界は広いってことを知ってほしい。広い世界の中で生活していく、戦っていく。そこで生き抜いていくために何が必要かを、自分で考えてもらいたい。もちろん勉強も必要。中でも語学対応力は必須事だと思う。自分の考えを様々な言語で発言する必要があるし、コミュニケーションの大切さも感じてもらいた。そんな環境を提案したいなと考えています。

僕の現役選手時代はまだ世界は遠いと感じていた。小さな世界でずっとサッカーをしてきた感じかな。それでも僕はすごく恵まれたラッキーだった1人といえる。そう思える出会いを一人でも多くの子供達に提案できたなら嬉しいです。きっとなにかを得られる確率は上がるはずだから。日本人がもっと世界で活躍できるチャンスはある。だから、まだまだ可能性は大きいと信じています」